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第二章:灰の中から

Penulis: 佐薙真琴
last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-02 18:09:48

 結婚式の中止を伝える電話は、想像以上に辛かった。

 夕夏の両親は、最初は何が起きたのか理解できない様子だった。母は泣き、父は怒りに震えた。慎一郎の家族への連絡は、夕夏が拒否したため、慎一郎自身が行うことになった。

 招待客へのキャンセル通知も、夕夏が一人で送った。百二十三人。一人ひとりに、簡潔だが丁寧な文章を書いた。理由は「諸般の事情により」とだけ記した。

 式場、ドレスショップ、花屋、カメラマン――すべてにキャンセルの連絡を入れた。キャンセル料だけで八十万円。しかし、それは問題ではなかった。お金は後から稼げる。失った時間は戻らないが。

 会社には、一週間の休暇を申請した。上司の田村は、夕夏の様子を見て、それ以上何も聞かなかった。

「休め。お前は十分頑張った」

 その言葉が、不思議と夕夏の心に響いた。

 一週間の休暇中、夕夏はほとんど外に出なかった。ただ、部屋の中で、自分の人生を見つめ直した。

 三十二歳。グラフィックデザイナーとしては、中堅どころ。実績もある。しかし、そのほとんどは「安全な」仕事だった。クライアントの要望を正確に形にする。納期を守る。クオリティを保つ。

 しかし、夕夏自身が「これを作りたい」と心から思ったものは、何もなかった。

 大学でデザインを学び始めた頃は、違った。夕夏は、視覚表現で世界を変えられると信じていた。一枚のポスターが、人の心を動かせると信じていた。

 しかし、社会に出て、現実を知った。デザインはビジネスだ。クライアントの売上を伸ばすためのツールだ。芸術ではなく、商業だ。

 そして夕夏は、いつの間にか、自分の情熱を忘れていた。

 休暇の五日目、夕夏は久しぶりに外に出た。目的地は、渋谷の大型書店だった。

 デザイン書のコーナーで、夕夏は一冊の本を手に取った。『Why Design Matters』――なぜデザインが重要なのか。著者は、ニューヨークを拠点にする日系デザイナーだった。

 その本の中に、一節があった。

「デザインは問題解決ではない。デザインは質問を投げかけることだ。世界はこれでいいのか? もっと美しく、もっと意味のある形があるのではないか? デザイナーは、その問いを形にする者だ」

 夕夏は、その場で立ち尽くした。涙が、また溢れてきた。しかし今度は、悲しみの涙ではなかった。

 それは、何か大切なものを思い出した時の、懐かしさと切なさが混じった涙だった。

 夕夏は、その本を買い、近くのカフェに入った。窓際の席に座り、コーヒーを注文し、本を読み始めた。

 二時間後、夕夏は本を閉じた。そして、カバンからスケッチブックとペンを取り出した。

 何を描くべきか、わからなかった。ただ、手が動いた。

 最初に描いたのは、砕けたグラスだった。破片が四方に散らばっている。しかし、その破片一つひとつが、光を反射して輝いている。

 次に描いたのは、鳥だった。檻から飛び立つ鳥。翼を広げて、空へ向かう姿。

 そして最後に、夕夏は自分の顔を描いた。しかしそれは、鏡を見て描いたのではなく、想像で描いた「これからの自分」だった。

 強い眼差し。決意に満ちた表情。そして、微かな笑み。

 夕夏は、スケッチブックを閉じた。そして、スマートフォンを取り出し、メモアプリを開いた。

 タイトルを打った。「小暮夕夏の再起計画」。

 そして、箇条書きで書き始めた。

会社を辞める

フリーランスのデザイナーとして独立する

自分が本当に作りたいものを作る

経済的に自立する

誰にも依存しない

 書き終えて、夕夏は深呼吸した。

 これは無謀だろうか? 三十二歳で、安定した仕事を捨てて、フリーランスになる。コネもなく、資金も限られている。

 しかし、夕夏には選択肢がないように思えた。このまま会社に戻れば、また以前の自分に戻ってしまう。安全だが、情熱のない日々。

 それよりも、失敗するかもしれないが、自分の道を歩む方がいい。

 夕夏は、カフェを出て、夕暮れの渋谷を歩いた。スクランブル交差点には、いつものように大勢の人々が行き交っていた。

 その群衆の中で、夕夏は一人、立ち止まった。そして、周りの人々を見た。

 みんな、どこかへ向かっている。目的地がある。それは仕事かもしれないし、家かもしれないし、誰かとの待ち合わせかもしれない。

 夕夏にも、今、目的地ができた。それは場所ではなく、「なりたい自分」という目的地だった。

 翌日、夕夏は会社に復帰した。そして、田村上司に辞表を提出した。

「辞める? お前、正気か?」

 田村は、驚きを隠さなかった。

「はい。独立します」

「独立? フリーか? 甘く見るなよ、小暮。この業界でフリーランスとして生き残るのは、会社員の十倍大変だぞ」

「わかっています。でも、やらないと後悔すると思うんです」

 夕夏の目を見て、田村は何かを感じ取ったようだった。

「あの男のことか」

 夕夏は頷いた。

「あいつは馬鹿だな。お前みたいな優秀なデザイナーを手放すなんて」

「ありがとうございます」

「しかし、お前が辞めるのは会社としては痛いぞ。クライアントからの評判もいいし、後輩の面倒見もいい」

「すみません」

「謝るな。自分の人生だ、自分で決めろ」

 田村は、そう言って、辞表を受け取った。

「一ヶ月後か。引き継ぎはちゃんとやってくれよ」

「もちろんです」

 その日の夜、夕夏は自分の部屋で、ノートパソコンを開いた。そして、新しいフォルダを作った。

 名前は「KOGURE DESIGN」。

 夕夏は、自分の屋号を決めた。小暮デザイン事務所。シンプルだが、自分の名前を前面に出す。もう誰かの影に隠れない。

 そして、夕夏は自分のポートフォリオサイトの制作を始めた。HTMLとCSSのコーディングは、大学時代に学んだスキルだった。長い間使っていなかったが、体が覚えていた。

 サイトのデザインは、ミニマルにした。白を基調に、タイポグラフィを効果的に使う。自分の作品を、シンプルに、しかし印象的に見せる。

 About(自己紹介)のページに、夕夏は書いた。

「私は、問いを投げかけるデザイナーです。クライアントのビジネスを成功させることはもちろんですが、それだけではありません。デザインを通じて、『本当にこれでいいのか?』『もっと良い方法があるのではないか?』という問いを、世界に投げかけたいと思っています」

 書き終えて、夕夏は何度も読み返した。これは、理想論だろうか? 現実のビジネスでは通用しないだろうか?

 しかし、夕夏は消さなかった。これが、自分の信念だ。

 翌週、夕夏は初めてのフリーランス案件を獲得した。それは、田村上司が紹介してくれた、小規模なカフェのロゴデザインだった。

「お前の餞別だ。ただし、手を抜くなよ」

 田村の言葉に、夕夏は深く頭を下げた。

 カフェのオーナーは、六十代の女性だった。夫を亡くし、長年の夢だったカフェを開くという。

「私、デザインのことは全然わからないんです。でも、温かくて、懐かしい感じがいいなって」

 オーナーの言葉を聞いて、夕夏は何度もヒアリングを重ねた。どんなコーヒーを出すのか。どんな客層を想定しているのか。どんな思い出があるのか。

 そして、三週間後、夕夏はロゴを完成させた。

 それは、コーヒーカップから立ち上る湯気が、柔らかな曲線を描いているデザインだった。湯気は、よく見ると、音符のような形をしている。

 コンセプトは「記憶の香り」。コーヒーの香りが、大切な人との思い出を呼び起こす。音楽のように、心に響く。

 オーナーは、そのロゴを見て、涙を流した。

「これです。これが私の求めていたものです」

 その瞬間、夕夏は感じた。これが、デザインの本当の力なんだと。売上を伸ばすためのツールではなく、人の心に触れるもの。

 報酬は、五万円だった。会社員時代の月給と比べれば、微々たるものだ。しかし、夕夏にとって、それは何よりも価値のあるお金だった。

 会社を辞める日、同僚たちが送別会を開いてくれた。

「小暮さん、本当にお世話になりました」

 後輩の山田が、涙ぐみながら言った。

「こちらこそ。これからも頑張ってね」

 田村は、夕夏に一本のボトルワインを渡した。

「いいか、小暮。フリーランスは孤独だ。しかし、孤独だからこそ、自分の信念を貫ける。迷ったら、このワインを開けろ。そして、初心を思い出せ」

「ありがとうございます。田村さん」

 その夜、夕夏は一人で、新しい人生のスタートラインに立った。

 不安はあった。しかし、それ以上に、期待があった。

 自分の翼で飛ぶ。自分の足で立つ。自分の声で語る。

 小暮夕夏の、本当の人生が、始まろうとしていた。

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